トレンド・プロ出版編集部の檜山萌子です。
前々回からは「絶対に読んでほしい第1話」をテーマに
「週刊少年ジャンプ」で連載中の『僕のヒーローアカデミア』をピックアップしています。
この第1話は、読み手をぐいぐい引き込む仕掛けがいっぱいあって、物語を作る上でお手本にしたいポイントだらけです。
前回に引き続き、どこがすごいのか、“つくり手の視点”から読み解いていきます。
※ネタバレしかありませんので
絶対に第1話を読んでからスクロールしてください。
「少年ジャンプ+(プラス)」で読めますから……!!
ヒットする物語の共通点とは
まずは前回の内容を軽くおさらいしましょう。
映画、小説、漫画……
人が感動し、素晴らしいと思うためには、
「物語」として優れている必要がある、という話をしました。
優れている、ということは、端的に言うと「面白い」ということです。
では面白いストーリーとはなんなのか。
面白い物語の要素としては、次のようなものが必要とされます。
●魅力的なキャラクターが登場し
●読者が感情移入しやすい場面設定で
●続きが気になるような展開をする
『僕のヒーローアカデミア』を解読してみると
物語の方法論では全体を4つに分け、次のような流れで語ると良い、とされています。
(1)設定
(2)反応
(3)攻撃
(4)解決
『僕のヒーローアカデミア』第1話(全54p)のうち、前回触れた25pまでの内容は、(1)設定と、(2)反応のパートに当たります。
【設定(1~12p):キャラクター&世界観設定の説明】
1.主人公はヒーローオタクのいじめられっ子である
2.主人公にはいじめっこの幼馴染がいる
3.主人公は中学3年生である
4.主人公の住む世界では
「個性」と呼ばれる特殊能力を持っている人がほぼ100%である
5.個性を悪用する敵・ヴィランと、そのヴィランを退治するヒーローがいる
6.ヒーローは職業となっている
【反応(13~25p):主人公の事情】
・ヒーローに憧れる主人公だが、彼は無個性であるためヒーローにはなれない
・にもかかわらず、ダメ元でヒーローの育成学校に通おうとしている主人公
・それを幼馴染のいじめっこが揶揄する
・主人公を大切に思っている母も、主人公はヒーローになれないと思っている
1~12pで、キャラクターの基本設定と世界観の説明、そして13p~25pを使って「主人公と他キャラクターの違い」が描かれています。
前回のブログにも書きましたが、
『僕のヒーローアカデミア』の第1話は
「緑谷出久(みどりや いずく)が他のキャラクターとどう違うのか」という点に関して、かなり丁寧に描いています。
まとめてしまうと「ヒーローに憧れる主人公だが、彼は無個性であるためヒーローにはなれない」の30文字で足りる内容です。
そこに緑谷出久本人の想い、彼を育ててきた母の想い、そして彼に反感を抱き、彼をいじめる幼馴染の存在を加えることで、キャラクターに奥行きが生まれ、読者は彼の感情に共感しやすくなります。
主人公というと、ドラゴンボールの悟空のような超人的な存在を連想しがちですが、物語のセオリーでは、欠点があり劣等感やトラウマを抱えたキャラクターも共感を呼びやすいと言われています。
最近のトレンドとしては、気弱な主人公のマンガが人気を集めているようです。
『僕のヒーローアカデミア』の緑谷出久は、まさに読み手の共感を集めるタイプの主人公と言えるでしょう。
ここまでは前回触れた内容です。
それでは、26p以降の内容をみていきましょう。
24-25pの見開きで、「個性」を使って悪事を行うヴィランに捕まった主人公は、次の26-27pで1人のヒーローに救助されます。
そのヒーローこそが、緑谷出久が憧れ続けたNo.1ヒーロー、オールマイト。
憧れのヒーローに出会った「ヒーローになれない少年」は、ここで一体どんな行動をとるか。
助けられたお礼を言って、そのまま家に帰るのであれば物語はここで終わりです。
こんな常識的な行動では物語が動き始めるきっかけ(物語の方法論で言うプロットポイント)にはなり得ません。
では、緑谷出久はどんな行動をとったか。
続く28pでは緑谷出久を主人公とした物語が動き出すきっかけについて描かれています。
【28pの内容】
・主人公は憧れのヒーローにあることを聞きたいがため
飛び立つヒーローのマントにしがみつき
ヒーローにくっついて飛んでいく。
1pから12pで描かれていた、いじめられっ子で引っ込み思案という緑谷出久のキャラクター像からかけ離れた思い切った行動。一見「らしくない」からこそ、物語が一気に動き始めるのです。
そしてここからは、物語のキーとなる伏線の描写が多くなってきます。
【30pの内容】
・ヴィランを拘束していた小型捕獲機(ポケットに入るぐらい)が、主人公がマントをつかんだのをきっかけに街に落ちてしまう
・解放されたヴィランは、たまたま居合わせた主人公の幼馴染を襲う
30pの内容は、主人公の軸とは少しズレた話になりますが、この内容が挿入されるからこそ読者の中の緊張感が高まります。
なぜなら、ヴィランが街の中に解放されているということを、主人公もヒーローも知らないからです。
街が、そして幼馴染が危機に陥っていることは読者にしかわからない。
だからこそ、本を読んでいる読み手は先が気になって、ページをめくる手が止まらなくなるのです。
危機的な小経が主人公の知らないところで進んでいくというのも、読み手をハラハラさせる手法としてセオリックな方法です。
30pからは主人公視点にもどります。
ここからは一気に内容を見ていきましょう。
【攻撃(30~40p):主人公が積極的になるパート】
・「無個性でもヒーローになれますか?」
とヒーローに聞く主人公にヒーローは自分の後遺症を見せる
・その後遺症のせいで、長時間活動できないこと、たとえば今日はもうヒーローになれないことを知る主人公
・ヒーロー「プロはいつだって命懸けだ。無個性でもできるとはいえないな」
・失意の主人公はお礼を言ってその場を去る
・主人公を見送ったヒーローが、街でヴィランが暴れていることに気づく
・家に戻る主人公も、ヴィランが街で暴れていることを知る
・観衆がヒーローの到着を待ち望む中、ただ1人、ヒーローがもう動けないことを知っている主人公
・「他にもヒーローはいる。襲われてる子は可哀そうだけど、もう少し待ってれば……」と立ちすくむ主人公だが──
さて、『僕のヒーローアカデミア』第1話は全54p。
残りのページ数は10pですね。
物語の方法論では「解決」のパートです。
ここまでくればこの後の展開もなんとなく予想がつくかもしれませんね。
『僕のヒーローアカデミア』第1話はこんなセリフで終わります。
── 君はヒーローになれる
これは、34pで「無個性でもできるとはいえないな」と主人公の夢を否定していたオールマイトから主人公に送られた言葉。
第2話から、主人公はヒーローになるための学校に通い、さまざまな経験を積んでいます。
34pで否定した夢を54pで肯定する。
『僕のヒーローアカデミア』第1話では、この否定と肯定の対比がとても印象的で、今回のブログで取り上げたオールマイトの言葉以外にも、主人公の母のセリフや、主人公と幼馴染の関係など、さまざまな局面で対照的な様子が描かれています。
本当に本当に、ぜひ一度読んでいただきたい──!
以上、3回にわたってお送りした、檜山萌子がおすすめする「絶対に読んでほしい第1話」でした!